正準変換

  • のぼりん
  • 2013/05/31 (Fri) 19:24:26
こんにちは。 初めて投稿させていただきます。

量子力学を学ぶための解析力学入門の演習問題5の3「無限小変換に移れない正準変換の一例を挙げ、その変換に対して Poisson 括弧が不変であることを確かめよ。」で、立ち往生しています(ちなみに、これより前の問題は何とか解けました)。

「無限小変換に移れない」の意味ですが、ある無限小変換のベクトル場から生成される1助変数変換群を考え、その正準変換がこの様な1助変数変換群の複数回の合成になり得ないことと解釈しました。

さて、(q_i,p_i) が正準座標系、(Q_i,P_i)がこれと異なる座標系だとします。 x=(x_1,…,x_2f)=(q_1,…,q_f,p_1,…,p_f)、X=(X_1,…,X_2f)=(Q_1,…,Q_f,P_1,…,P_f) とおき、2f 次正方行列 M=(∂x_i/∂X_j) を考えれば、変換 x=(q_i,p_i)→X=(Q_i,P_i) が正準変換であるためには、M がシンプレクティック行列であることが必要十分です。 シンプレクティック群 Sp(2f,R) は連結だそうですので、Sp(2f,R) の中で 2f 次単位行列と M を滑らかに結ぶ経路が取れます。 ということは、局所的にこの経路に近い1助変数変換群を取り、これを幾つか繋げれば、無限小変換に移れる様に思われます。

ここで、同書の略解によれば、右手系から左手系に移る点変換が無限小変換に移れない正準変換であるとのことです。 また、他のサイト(http://www2.ph.ed.ac.uk/~rhorsley/SII12-13_hamd/lec12.pdf)によれば、入れ替えの正準変換 Q_i=p_i、P_i=-q_i も、単位元と連続的に結べない正準変換であるとのことです。 ということは、任意の正準変換が無限小変換に移れそうだという推測が間違いと言うことだと思います。 右手系から左手系に移る点変換や入れ替えの正準変換が無限小変換に移れない正準変換であることは、どのように証明すれば良いのでしょうか。

独学で読んでいるため、周りに教えを乞える方もいません。 何卒ご教示下さいますようお願いします。

※ 表現に不正確な部分がありましたので、後日修正しました。

Re: 正準変換

  • KENZOU
  • 2013/06/03 (Mon) 11:35:39
のぼりんさん,こんにちは,KENZOUです。最近は他の事でいろいろ忙しくなってきたのでお返事が遅れました。じっくり考える余裕も無くっなってきたので(^^);ご容赦ください。

以下,思いつくままに書き進めます。
右手系から左手系への変換は鏡映変換と呼ばれますが,鏡映変換は連続変換ではなく離散変換ですね。連続変換は無限小変換の連続的な積み重ねである有限な変換を実現することができますが,離散変換はそのようなことができません。

しかし,面白いことに空間回転は2回の鏡映変換により実現することができます。離散変換と連続変換の組み合わせのようなものですが,この辺りの詳しい事情は
http://www.phys.cs.is.nagoya-u.ac.jp/~tanimura/math-phys/mathphys-2-5.pdf
に述べられていますので参照してみてください。

鏡映変換に不変な力学系ではしたがって角運動量が保存(空間回転に対して不変)されます。また,運動量も保存されます。
このあたりのことは西島和彦「力学系と自然法則」(参照図書)で詳しく議論されています。

シンプレクティック多様体の議論は,残念ながら私はあまり詳しくないのでフォローできかねますが,木村利栄/菅野礼司「微分形式による解析力学」(マグロウヒル)には詳細な議論が載っていますので,ご参照されればと思います。

以上,あまり参考にならなかったとは思いますが,とりあえず返信まで。

Re: 正準変換

  • のぼりん
  • 2013/06/03 (Mon) 20:29:07
KENZOU先生

ご多忙のところご回答下さり、誠にありがとうございます!
お忙しい中下らぬ質問にご対応いただき、深く感謝申し上げます。
頭が固くて理解が進まずに困っていたところ光明が見え、ほっと致しました。

なるほど、鏡映変換は離散変換なのですね。
連続変換、離散変換とも、定義すら理解できていないのですが、連続変換とは、正準変換群(あるいはシンプレクティック群)の中で、滑らかな経路で恒等写像(単位元)と繋げる変換、つまり単位元の属する連結要素に含まれる正準変換、離散変換はそうでない正準変換、という意味と想像しました(誤解しているようでしたらご指摘いただけるとありがたいです)。

鏡映変換が離散変換であることの証明は、いかなるものでしょうか。
これが、今つまづいている障害の本質で、解決の糸口すら見えず困っています。
もし量が多い等で掲示板での質疑が難しいようであれば、その詳細を記す書籍を紹介いただけるだけでも、とても助かります。
何卒よろしくお願いします。

空間回転が二回の鏡映変換により実現できるのは、とても面白い性質ですよね。
カルタンの定理だったと思いますが、さらに一般的には、次元によらず、内積を一般化し二次形式でも同様の性質があったかと思います。

シンプレクティック多様体の議論は、全く知らない分野です。
解析力学から発展した数学の一分野だと伺いましたが、学習することにより解析力学自体の理解が進むのであれば、毛嫌いせず勉強した方が良いでしょうか……

Re: 正準変換

  • KENZOU
  • 2013/06/04 (Tue) 11:37:53
のぼりんさん,こんにちは,KENZOUです。

>連続変換とは、正準変換群(あるいはシンプレクティック群)の中で、滑らかな経路で恒等写像(単位元)と繋げる変換、つまり単位元の属する連結要素に含まれる正準変換、離散変換はそうでない正準変換、という意味と想像しました


え~っと,例によってピンボケの返信となりますが,適当に読み流してご一考いただければと思います。

既にご承知のこととは思いますが,無限小正準変換を少し復習してみます。
正準変換 (q_i,p_i) →(Q_i,P_i) でδq_i = Q_i - q_i, δp_i = P_i - p_i が微小であるものを無限小正準変換といいました。「量子力学を学ぶための解析力学入門」のテキストを参照すれば無限小正準変換は

Q_i = q_i + ε(∂G/∂p_i), P_i = p_i - ε(∂G/∂q_i)    (1)

と表わすことができます。ここでεは無限小のパラメータ,Gはq,pの任意の一価連続微分可能な関数で無限小変換の母関数ですね。

無限小変換の有難味は,有限の正準変換は無限小変換を無限回連続して行うことで実現できるという点にあります。具体的にはεを連続的に変えるパラメータ s を考え,その微小変化 ds (= s+ds-s) に対応する q, p の変化は(1)より

dQ_i = Q_i - q_i = (∂G/∂p_i)ds, dP_i = P_i - p_i = -(∂G/∂q_i)ds,

と表わせます。これを整理すれば正準変換 (q_i,p_i) →(Q_i,P_i) は次の微分方程式の解ということが分かります。

 dQ_i/ds=∂G/∂P_i,  dP_i/ds=-∂G/∂Q_i   ( i = 1,2,・・・f )  (2)

具体的な解は s = 0 でq_i, p_i となる Q=Q(q,p,s), P=P(q,p,s) により与えられます。正準変換は群を形成しますが,この群は連続的に変わる変数 s の関数として与えられるので連続群と呼んでいます。

ついでに無限小変換とPoisson括弧の関係について少し触れておくと,無限小変換でq, p の任意の関数 F(q,p) の受ける変化は

 F(Q,p) - F(q,p) =ε[F, G]

で,これは F と変換の母関数 G の Poisson括弧で表わされました。


>(q_i,p_i) が正準座標系、(Q_i,P_i)がこれと異なる座標系だとします。 x=(x_1,…,x_2f)=(q_1,…,q_f,p_1,…,p_f)、X=(X_1,…,X_2f)=(Q_1,…,Q_f,P_1,…,P_f) とおき、2f 次正方行列 M=(∂x_i/∂X_j) を考えれば、変換 x=(q_i,p_i)→X=(Q_i,P_i) が正準変換であるためには、M がシンプレクティック行列であることが必要十分です。

ご指摘の通りです。正準変換は 2f 次元の位相空間における体積を不変に保ちます。言い換えればJacobian = detM ということですね。


>鏡映変換が離散変換であることの証明は、いかなるものでしょうか。

さて,話は飛びますが単連結というのはパラメータ空間に引いた任意の閉曲線がその空間の外へ出ることなしに,連続的変形によって1点に縮めることができる(山内恭彦「回転群とその表現」(岩波))というものでした。
鏡映変換を考えると,直感的な話になりますが(←数学的な証明は残念ながら不勉強のため見たことがありません(^^);),これは座標系が右手系から左手系(逆もあり)へ変換することですから,連続的な変形では乗り移れないですね。例えばx = -x という変換を考えた場合,xを無限小縮めていくことを重ねていけば -x に到達するではないかと思えますが,その過程で座標系の向き(右ねじの進む方向が逆になる)が不連続に変化するという境界(?)にぶつかります。これゆえ離散変換と呼ばれると考えていますが,いかがなものでしょうか。


>シンプレクティック多様体の議論は、全く知らない分野です。
解析力学から発展した数学の一分野だと伺いましたが、学習することにより解析力学自体の理解が進むのであれば、毛嫌いせず勉強した方が良いでしょうか……

このご質問に真正面からお答えできるほどの力はありませんので,蛇足として聞き流してください。

解析力学の数学的構造にご興味があるのでしたら微分幾何学からのアプローチとして面白いと思います。そうではなく,量子力学の橋渡しとして解析力学を勉強されるのでしたら特に必要はないと思います。素粒子論を勉強される場合には知識として有力になりますが,その場合は対処療法的に勉強されるのも一つのやり方ではないかと愚考します。。。

Re: 正準変換

  • のぼりん
  • 2013/06/04 (Tue) 19:19:56
KENZOU 先生、下らぬ質問に度々お付き合い頂き、ありがとうございます。
シンプレクティック多様体については、取り敢えず必要ないとの助言をいただき安心致しました。
これ以上となると、消化不良になってしまいそうですので、当面は忘れていたいと思います。

質問の本旨である“鏡映変換が離散変換である”ことについてですが、頭が固いせいか、おっしゃる程自明に感じることができないでいます。
確かに、配位空間において鏡映変換が離散変換であることは、鏡映変換の行列式が -1 であることから自明だと思います。
しかし、位相空間では、運動量も一緒に変換できることから、上手く理解が進んでいません。

例えば、六次元位相空間で正準座標系 (x,y,z,p_x,p_y,p_z) を取り、二次元部分空間 (y,p_y) における平面回転を考えてみます。
θ をパラメータとし、
   x’ =x
   y’ =cosθ・y-sinθ・p_y
   z’ =z
   p’_x=p_x
   p’_y=sinθ・y+cosθ・p_y
   p’_z=p_z
と対応させます。
(x’,y’,z’,p’_x,p’_y,p’_z) のポアソン括弧を計算してみると、正準変換になっている様です。

これは、無限小変換から構成できる連続的な正準変換の一例ではないかと思います。
ここで、θ を 0°から 180°まで動かせば、(x’,y’,z’,p’_x,p’_y,p’_z)=(x,-y,z,p_x,-p_y,p_z) という鏡映変換が得られる様に思います。
(間違い・誤解等ある場合には、どうかご指摘下さい)

この様に、「鏡映変換が離散変換である」という意味が良く分からくなっており、この問題が解けなくなっていました。
しかし、これ以上自力で進むのは無理そうですし、証明を載せている参考書がないとのことですので、誠に残念ではありますが、当面は追求するのを諦めることにしました。
また、ご質問することがあるかも知れませんが、そのときも何卒ご指導の程よろしくお願いします。

ところで、量子力学を学ぶための解析力学入門の演習問題は、特に第3章以降は、本に書いていない進歩的な内容を使うものが多く、難儀しています。
今のところ、本問を除き第6章まで進みましたが、この本のみでは到底太刀打ちできず、他の本を何冊も当たり漸く解いている有様です。
物理は全くの素人で余暇に趣味で勉強しているところですが、古典力学当たりでこの有体では、先が思いやられます。
正規の教育を受けない者が物理学を理解するのは、相当にハードルが高そうです…

Re: 正準変換

  • KENZOU
  • 2013/06/05 (Wed) 10:40:00
のぼりんさん,こんにちは,KENZOUです。

>二次元部分空間で,θを0°から180°まで動かせば、(x’,y’,z’,p’_x,p’_y,p’_z)=(x,-y,z,p_x,-p_y,p_z) という鏡映変換が得られる様に思います。

これは仰る通りですね。ただ,テキストの略解は「右手系から左手系に移る点変換が無限小変換に移れない正準変換である」ということでした。2f次元位相空間も右手系と左手系の座標系が定義できます(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%B3%E6%89%8B%E7%B3%BB)。この2つの座標系はどのようにしても重ねあわすことができませんね(http://hooktail.sub.jp/vectoranalysis/AxialAndPolar/)。これが離散変換の元になっていると思うのですが。鏡映変換などを持ち出したりして却って話を混乱させてしまったような。。。(^^);
またおかしなことを言っている様であればご寛容ください。


>今のところ、本問を除き第6章まで進みましたが、この本のみでは到底太刀打ちできず、他の本を何冊も当たり漸く解いている有様です。
物理は全くの素人で余暇に趣味で勉強しているところですが、古典力学当たりでこの有体では、先が思いやられます。
正規の教育を受けない者が物理学を理解するのは、相当にハードルが高そうです…

素晴らしい取り組みですね! 物理の勉強は一直線に上昇できるものではないです。ジグザグを繰り返し,行きつ戻りつ,時々寄り道しながらだんだん理解が深まっていくものと思います。また,勉強は基本的に独学がメインで,正規の教育云々という妄想に囚われる必要もないと思いますが。。。

Re: 正準変換

  • のぼりん
  • 2013/06/06 (Thu) 21:23:58
何度もお付き合い下さりありがとうございました。

> 2f次元位相空間も右手系と左手系の座標系が定義できます(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%B3%E6%89%8B%E7%B3%BB)。
> この2つの座標系はどのようにしても重ねあわすことができませんね(http://hooktail.sub.jp/vectoranalysis/AxialAndPolar/)。

確かに配位空間で重ね合わすことは無理ですが、位相空間で考える場合は、前回提示した二次元部分空間 (y,p_y) の回転により重ね合わすことができる様に思います。
しかし、これ以上理解を深めることは、今の私には無理な様なので、本件は諦めることにします。

また、ご質問することがあるかも知れませんが、そのときも何卒ご指導の程よろしくお願いします。
(投稿前に、内容をプレビューして確認できます)